2011-01-01から1年間の記事一覧

午前十時のノスタルジア

映画って結構シビアな―というか制約の大きい―表現形式だなぁ。などと、ときどき思う。 「スクリーンで観る」ことを前提にして製作されているにかかわらず、一般人が実際にスクリーンで観れる期間はとても短い。ほとんどの作品が1年も経てばスクリーンでは観…

映像と音楽で語られる“現代の民話” 『アンダーグラウンド』

今年7月、アフリカで南スーダン共和国が分離・独立した。また1つ、国が生まれた。このように「国が増える」ということに対して違和感を抱く人はあまりいないのではないかと思われる。(表向き)国民国家がスタンダードになった現代にあって、国というもの…

平安の世にすでにBLの気あり哉 『とりかえばや物語』

12月と聞いて、どんなイベントを思い浮かべるだろうか…?クリスマス?大晦日?ノンノン、一般にオタクや腐女子と呼ばれる人であれば「冬コミ」と答えるかもしれない。夏と冬の年2回、東京ビッグサイトで開催される世界最大の同人誌即売会=コミックマーケ…

「複雑さ」の生み出す、おもしろさと絶望感 『石の花』 

複雑な様相を呈する(つまり込み入った)話というのは得てして嫌煙されがちだ。とくに最近は、社会、あるいは世の中が複雑化しているために―事実は元から複雑だった部分も少なくないのだろうと思うけれど―世間的にそれに辟易している気もあって、複雑な話と…

稲刈りに行ってきた

司馬遼太郎は人の相貌を見ることでその人がどこの出身か(どの土地の血筋を引いているのか)当てることが得意だったという。『街道をゆく』シリーズの第1巻「甲州街道・長州路ほか」で司馬氏が書いていた長州人(山口県人)の顔によく見られる特徴というの…

地球ごと逆回転させる『銃・病原菌・鉄』と、女媧の盲目

藤崎竜のマンガ『封神演義』を読んだことはありますか?「最初の人」たる女媧(異星人)はこの地球上で、世界を滅ぼす破壊力と世界を創り上げる力を持つ「四宝剣」でもって、幾度もこの世界を滅ぼしては創造するということを繰り返していた―彼女は自滅してし…

韓国映画の秀作2本

前のエントリーで韓流が云々述べたけれど、あの後ネットバタ足していてわかったことには、韓国映画というのはもうここ10年ほどの間ずっと、大変な賑わいであるらしいということだった。 ところで、実は最近、映画に半ば飽きていた。原因の1つを端的に言え…

鬱な気分だと思ったらやってみるとよいこと

高2の夏休み明けくらいから日記を書いているのだけど、大学に入学する頃まで、気持ちが沈んだり億劫だったりするようなときの状態を、常におしなべて「ウツ」の一言で済ましていた。たとえば「今日は〇〇があってウツになった。」とか「明日は早起きしなく…

サンフンという影画―ハン姉弟という可能性と、その模索 『息もできない』

「希望」と聞くと、ふつうは明るいイメージ。もしくは、軽やかな予感。でもこの映画で示された希望は、重い。直視するのに困難さを伴う希望だったと言える。 ネプチューンの原田泰造がテレビ番組「しゃべくり007」で嬉しそうに紹介しているのを見たことで…

ときどき、本読む虫も好き好き 『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』

まくら 試しに「世界文学全集」と銘打たれたものに手を出してみようかな、で、まあゆっくり読んでゆこうかなと少し前から思っていた。しかし反面、収録作は全集でなくても文庫などで読めるものが少なくないし、訳もいろいろあるし、あるいはこれが一番の理由…

『レスラー』再観賞/批評という援け

割引きクーポンが配信されるのを見計らって借りに行こうかと思っていたけれど、待ちきれなくて借りてきてしまった。ダーレン・アロノフスキー(『ブラック・スワン』の監督)の『レスラー』。 去年の秋のこと、なぜかやたらとDVDを借りてきては立て続けに映…

虫、虫、虫 /『ユリイカ』(2009年9月臨時増刊号)

数日前に図書館へ行ったとき、本当はまったく別のものを探していたのだけど、ふと、とある『ユリイカ』が目に留まった。それは2009年9月臨時増刊号で「昆虫主義」と銘打たれた特集が組まれたものだった。『ユリイカ』と言えば「詩と批評」の雑誌であり…

旅先が外国の場合もってゆくとよいもの

おもむろに、3・4年前にインドとか南米とかへ一人旅をしてみたときの話。 それぞれ3週間〜1ヶ月くらい滞在していたところ、おれの場合、だいたい1週間過ぎて2週目の半ばくらいにモチベーションみたいなものが急激に衰える傾向にあった。 体調が悪いと…

うたう、ルポルタージュ(あるいは毒書) 『苦海浄土』

「世の中に絶対なんてものは絶対にないんじゃないか」と、思い続けてきた。いや今でも、99%は絶対ではないように思える。けれど1%、もしくは1%にも満たないものであっても、ときに“絶対なるもの”がありうるのかもしれない…この本を読んで、痛切にそう…

その病は対岸の火事かというと曾子 『街場のメディア論』

まずはじめに、id:ast15さんのブログ『けれっぷ彗星』は「天災と国防」というエントリーにおける、赤亀(おれ)とast15さんのコメントのやりとりをここに載せてみたい。『天災と国防』という本は、今度の震災を受けて最近公刊された「天災に関する寺田…

チャップリンと“あの”チャップリン 『チャップリン自伝』

この1ヶ月ほど怒涛のバイトの日々で、ここ3日間は夏コミの現場で汗だくになった(コミケってあんなに盛大に催されるものだったのか…!)。それに先立つ一月ほど前、7月前半、おれはにわかにチャップリンづいていた。少し遠くのレンタルショップにチャップ…

諸文化の根にある文化と「いただきます」 『栽培植物と農耕の起源』

「アニメは文化だ」—ツタヤに行きアニメコーナーを見やるとこんな惹句が掲げられている。はじめてこれを目にしたときは「え、これまでは文化じゃなかったの…」とむしろちょっと驚いた。それは当たり前のことをわざわざ宣しているように思ったからだが…さてお…

みきみきツンパ、かるていは? 『パンツの面目 ふんどしの沽券』

パンツとは他人に対する陰部の最後の砦。しかし「勝負パンツ」というものがあるように、ときに人は、生殖器よりもそれを被い隠す下着を見られることの方をより意識することもある。100年ほど前の日本はまだフンドシが一般的だったようだけど。 米原万里の…

学びを通して養われるもの 『刑務所の中の中学校』

『イワン・デニーソヴィチの一日』や『ショーシャンクの空に』、佐藤優の『獄中記』等々、強制収容所や牢獄、刑務所といった空間には世間と隔絶されている分だけ特殊な雰囲気、ある種の魅力がある(入らないほうがよいし、入りたくはないけど)。ソルジェニ…

寺田寅彦の「津波と人間」を読んで思ったこと

3・11から早3ヶ月ちょい。なんだかんだ言いつつも震災それ自体に対する関心は自分の中でやや薄れ…ということで、1933年3月3日に起きた昭和三陸大津波と甚大なるその被害の報告を受けて寺田寅彦が書いた「津波と人間」を再読した。※今回のエントリ…

『科学と科学者のはなし』再読―だいぶ暇だと見えますね、寅彦先生

ざっくばらんに区別する際に理系とされる分野の本に最近手を出すようになって思うのは、「文型」「理系」という分け方はごく表面的なものに過ぎないんだな、ということである。語られていること、説明されていることの奥へ少し踏み込んでみるだけで、もはや…

おっきな割れないシャボン玉 『生物から見た世界』/「Simple is best」の意味

「人それぞれに“見えている”世界は違う」と耳にすることがあるけど、人間が見ている「世界」と、その他の動物が見ている「世界」も異なる。このパンフレット的な本は動物たちにこの世界はどう見えているか、というより、どのように見ているかという話。 その…

婚活小説 『高慢と偏見』

普段はあまり「ラブストーリー」と銘打たれたものに食指が伸びない。嫌いなのではなく、自分にはその魅力やおもしろさがよくわからず、大抵楽しめないからである。『高慢と偏見』なんか「世界文学屈指のラブストーリー」と背表紙に書かれているくらいでとて…

ビニール傘考

序 梅雨はすぐそこ。そろそろあじさいも咲きごろ、花言葉は「移ろい」。 夜明けの空はあじさいの色をしていることがある。あじさいは漢字で紫陽花。「ああ、紫の陽ね」…と今思ったおれは紫色が好きなのだが、どっこい、この色、「欲求不満」を表すそうな。 …

エヴァ、観た、やっと

いやーついに、やっと、『新世紀エヴァンゲリオン』(TVシリーズ+「Air/まごころを、君に」)を観た。 ちなみにこのエントリーは、エヴァの感想ではなく、エヴァにまつわる個人的な捉え方や体験を書きます。 最近は「グランドセオリー」とか「ビッグ…

向こう側にウサギは何を見たのか 『真昼のプリニウス』

「見た目はチワワで、中身はドーベルマン」というのか、けっこう過激な小説だ。 『千の顔をもつ英雄』のエントリーで「今の人には物語が足りないんじゃないか」という話をちらっとしたけど、この小説はこれに正面からぶつかってくる。「反対だよ。何でもかん…

子供たちが産み落とされるこの街、人々 『セブン』

たとえば「小説」と呼ばれるジャンルを独りである程度掘り下げていると、その世界がどんどん広がり深まっていくと同時に、基本的に自分の興味・関心を軸としているわけだから、進む方角に無駄がなくなりブラッシュアップされていったり、あるいは頭打ちにな…

物理学的に言うと、神は変幻自在のギャンブラー也 『物理学と神』

文型だったおれの理系アレルギーをふっ飛ばしてくれた一冊。 近代科学はヨーロッパで芽を出した。当時のキリスト教徒たちは神から2つの“書物”を与えられていると考えていた。その一つは、言わずと知れた聖書である。もう一つは、“自然”。近代科学はその自然…

自然はどこに?/サンタクロースの落し物 『灰色の輝ける贈り物』『冬の犬』

自然が遠くなった。とぼやく人がときどきいるけれど、その“自然”ってなんだろう。 2・3ヶ月前の早朝、といっても冬だったのでまだ薄暗い明け方、犬の散歩に出かけたときのこと。近くの線路の下にある小さなトンネルをくぐるとき、突然、犬が何かに喰らいつ…

天秤と風船 (’02年末の彼の地 『イラクの小さな橋を渡って』)

「大量破壊兵器の保有」を口実にイラク侵攻が行われたのは、2003年。あの侵攻であっという間にフセイン政権は崩壊したがその後、現在あの国がどういう状況になっているのか知っている日本人はどれくらいいるだろう。というかイラクがどこにあるのか、わ…