無題(読書感想メモ)

下りの船 下りの船 (想像力の文学)作者: 佐藤哲也出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2009/07/09メディア: 単行本 クリック: 15回この商品を含むブログ (23件) を見る「歴史は繰り返される」的な物語に気持ちは下ってゆくけれど一方で、読み心地がたまらなく…

翻訳者に惚れ込まれるほど幸福な翻訳書はない

ジュノ・ディアスの『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』を読んだ。( ※ なお、このエントリにはいくつか注が付されているが、注にした意味はとくにない。この小説を読んで無駄にやってみたくなっただけ。)オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト…

第9回:『渋滞学』西成活裕

渋滞は、でもやっぱり巻き込まれたくはないね。渋滞学 (新潮選書)作者: 西成活裕出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2006/09/21メディア: 単行本購入: 8人 クリック: 100回この商品を含むブログ (147件) を見る 渋滞と言うとふつう車のそれを指すけれど、世の中…

第8回:『東インド会社とアジアの海』羽田正

緯(よこいと)で立ち上がる世界史―あるいは歴史叙述とか「グローバル社会」とか。東インド会社とアジアの海 (興亡の世界史)作者: 羽田正出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/12/18メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 36回この商品を含むブログ (22件) を…

第7回:『エンジン・サマー』ジョン・クロウリー

このお話には<空の都市>と呼ばれる空中庭園が出てくる― エンジン・サマー (扶桑社ミステリー)作者: ジョンクロウリー,John Crowley,大森望出版社/メーカー: 扶桑社発売日: 2008/11メディア: 文庫購入: 37人 クリック: 234回この商品を含むブログ (103件) …

EXTRA:『贈与論』マルセル・モース

EXTRAについて 本の指定者が3人のうちの誰かではなくて、「伴読部」である―ということです。 前回(第6回)までで本の指定者が2巡し、またそれぞれの感想をアップしてきたわけですが、実は毎回その後があって、感想アップ後には「お互いの感想を読ん…

第6回:『メモリー・ウォール』アンソニー・ドーア

記憶のあるところ。あるいはノスタルジーについて。メモリー・ウォール (新潮クレスト・ブックス)作者: アンソニードーア,Anthony Doerr,岩本正恵出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2011/10/01メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 44回この商品を含むブログ (…

第5回:『ヴァギナ』キャサリン・ブラックリッジ

目を逸らすなかれ。ヴァギナ 女性器の文化史 (河出文庫)作者: キャサリン・ブラックリッジ,藤田真利子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2011/02/04メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 638回この商品を含むブログ (28件) を見る これでもか!というくら…

第4回:『貨幣論』岩井克人

お金はなんで、お金なの?貨幣論 (ちくま学芸文庫)作者: 岩井克人出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1998/03/10メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 66回この商品を含むブログ (51件) を見る ダーウィンが進化を確信するにビーグル号航海が大きな影響を与えた…

これからの「世界史のOS」の話をしよう 『新しい世界史へ』

世界史は生まれ変わらなければならない―「世界はひとつ」であって、端的に言えば、「地球主義の考え方に基づく地球市民のための世界史」へ。「地球社会の世界史」へ。 「分有から共有へ」「独自性(ないし相違)よりも共通性(相関性・連関性)に着目する」…

第3回:『熊から王へ』中沢新一

野蛮とは実際のところ、何だろうか?それは外にあるのではなく、内にあるもの。熊から王へ カイエ・ソバージュ(2) (講談社選書メチエ)作者: 中沢新一出版社/メーカー: 講談社発売日: 2002/06/10メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 4人 クリック: 30回こ…

「微分型」と「積分型」と/おさらいの妙味 『おとなの楽習』(理科)

最近、自分のなかにある(ないし自分を乗っけていたらしい)“流れ”とでも呼ぶべきものが何か変化してきたような、というより、べつの流れが発生、勢いを増してきたような気がする・・・最近と言っても実は、河出の世界文学全集を読み終わったあたりに(つまりお…

第2回:『埋葬』横田創

この小説は2度読むことになる。きっと。埋葬 (想像力の文学)作者: 横田創出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2010/11/25メディア: 単行本購入: 10人 クリック: 480回この商品を含むブログ (20件) を見る たとえば「打ちのめされるようなすごい本」に遭遇した…

『トロピカル・マラディ』または『山月記』

『トロピカル・マラディ』という映画がスゴかった。濃密でいて静謐。アピチャッポン・ウィーラセタクンというタイ人映画監督の作品である。いままで観てきた映画のなかでも五指に入る。もしかしたら1番かもしれない。 森林警備兵のケンと無職の田舎人トン―…

真夏のアスファルトで干からびるミミズ。窒息しそうなほど溢れかえる窒素。あるいは、文明の寿命。『土の文明史』

土壌の肥沃さと土壌浸食は、歴史の流れを大きく変えてきた―より具体的に言えば、「土壌劣化」と「加速する侵食」という双子の問題が文明の運命を左右してきた。“泥に刻まれた歴史”を紐解くことで、それが見えてくる。 「土」をキーワードに歴史が解き明かさ…

第1回:『ウンラート教授』ハインリヒ・マン

これは一種のピカレスクものか、復讐劇か、それともだめ男の話か。副題は「あるいは、一暴君の末路」。ウンラート教授―あるいは、一暴君の末路作者: ハインリヒマン,Heinrich Mann,今井敦出版社/メーカー: 松籟社発売日: 2007/10/01メディア: 単行本購入: 8…

『笹まくら』再読/戦争モノの黒い魅惑

もし、明日にも日本が戦争をはじめるという情勢にあったとして、そのために自分が徴兵されたとしたら、おれは一体どうするだろう…? —なんてことを思ったりしたのは、このごろ、戦争モノに触れる機会がちょっと多いからかもしれない。『ツリー・オブ・ライフ…

平安の世にすでにBLの気あり哉 『とりかえばや物語』

12月と聞いて、どんなイベントを思い浮かべるだろうか…?クリスマス?大晦日?ノンノン、一般にオタクや腐女子と呼ばれる人であれば「冬コミ」と答えるかもしれない。夏と冬の年2回、東京ビッグサイトで開催される世界最大の同人誌即売会=コミックマーケ…

「複雑さ」の生み出す、おもしろさと絶望感 『石の花』 

複雑な様相を呈する(つまり込み入った)話というのは得てして嫌煙されがちだ。とくに最近は、社会、あるいは世の中が複雑化しているために―事実は元から複雑だった部分も少なくないのだろうと思うけれど―世間的にそれに辟易している気もあって、複雑な話と…

地球ごと逆回転させる『銃・病原菌・鉄』と、女媧の盲目

藤崎竜のマンガ『封神演義』を読んだことはありますか?「最初の人」たる女媧(異星人)はこの地球上で、世界を滅ぼす破壊力と世界を創り上げる力を持つ「四宝剣」でもって、幾度もこの世界を滅ぼしては創造するということを繰り返していた―彼女は自滅してし…

ときどき、本読む虫も好き好き 『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』

まくら 試しに「世界文学全集」と銘打たれたものに手を出してみようかな、で、まあゆっくり読んでゆこうかなと少し前から思っていた。しかし反面、収録作は全集でなくても文庫などで読めるものが少なくないし、訳もいろいろあるし、あるいはこれが一番の理由…

虫、虫、虫 /『ユリイカ』(2009年9月臨時増刊号)

数日前に図書館へ行ったとき、本当はまったく別のものを探していたのだけど、ふと、とある『ユリイカ』が目に留まった。それは2009年9月臨時増刊号で「昆虫主義」と銘打たれた特集が組まれたものだった。『ユリイカ』と言えば「詩と批評」の雑誌であり…

うたう、ルポルタージュ(あるいは毒書) 『苦海浄土』

「世の中に絶対なんてものは絶対にないんじゃないか」と、思い続けてきた。いや今でも、99%は絶対ではないように思える。けれど1%、もしくは1%にも満たないものであっても、ときに“絶対なるもの”がありうるのかもしれない…この本を読んで、痛切にそう…

その病は対岸の火事かというと曾子 『街場のメディア論』

まずはじめに、id:ast15さんのブログ『けれっぷ彗星』は「天災と国防」というエントリーにおける、赤亀(おれ)とast15さんのコメントのやりとりをここに載せてみたい。『天災と国防』という本は、今度の震災を受けて最近公刊された「天災に関する寺田…

チャップリンと“あの”チャップリン 『チャップリン自伝』

この1ヶ月ほど怒涛のバイトの日々で、ここ3日間は夏コミの現場で汗だくになった(コミケってあんなに盛大に催されるものだったのか…!)。それに先立つ一月ほど前、7月前半、おれはにわかにチャップリンづいていた。少し遠くのレンタルショップにチャップ…

諸文化の根にある文化と「いただきます」 『栽培植物と農耕の起源』

「アニメは文化だ」—ツタヤに行きアニメコーナーを見やるとこんな惹句が掲げられている。はじめてこれを目にしたときは「え、これまでは文化じゃなかったの…」とむしろちょっと驚いた。それは当たり前のことをわざわざ宣しているように思ったからだが…さてお…

みきみきツンパ、かるていは? 『パンツの面目 ふんどしの沽券』

パンツとは他人に対する陰部の最後の砦。しかし「勝負パンツ」というものがあるように、ときに人は、生殖器よりもそれを被い隠す下着を見られることの方をより意識することもある。100年ほど前の日本はまだフンドシが一般的だったようだけど。 米原万里の…

学びを通して養われるもの 『刑務所の中の中学校』

『イワン・デニーソヴィチの一日』や『ショーシャンクの空に』、佐藤優の『獄中記』等々、強制収容所や牢獄、刑務所といった空間には世間と隔絶されている分だけ特殊な雰囲気、ある種の魅力がある(入らないほうがよいし、入りたくはないけど)。ソルジェニ…

『科学と科学者のはなし』再読―だいぶ暇だと見えますね、寅彦先生

ざっくばらんに区別する際に理系とされる分野の本に最近手を出すようになって思うのは、「文型」「理系」という分け方はごく表面的なものに過ぎないんだな、ということである。語られていること、説明されていることの奥へ少し踏み込んでみるだけで、もはや…

おっきな割れないシャボン玉 『生物から見た世界』/「Simple is best」の意味

「人それぞれに“見えている”世界は違う」と耳にすることがあるけど、人間が見ている「世界」と、その他の動物が見ている「世界」も異なる。このパンフレット的な本は動物たちにこの世界はどう見えているか、というより、どのように見ているかという話。 その…