映画

これはフィクション、つまり… 『ファニーゲーム』

嫌らしい映画だ。観客に良心的であるところがまた、嫌らしい。 「ゲーム」は、夏の休暇を過ごすために別荘にやってきたある家族と、隣家にいる2人の青年とのあいだで展開してゆく…と言い条、一方的にゲームに参加させられ、そして一方的に嬲られてゆくショ…

彼女は“選んだ” 『別離』

ペルシャ語と聞いて、どこで話されている言語かパッと答えられる人はどのくらいいるだろうか。 ラテン語のように学名や特定の場でのみ使用されるとか、古語のように読めなくはないが「現役」とも言えないものでもなければ、アイヌ語のように話者が数えるほど…

『トロピカル・マラディ』または『山月記』

『トロピカル・マラディ』という映画がスゴかった。濃密でいて静謐。アピチャッポン・ウィーラセタクンというタイ人映画監督の作品である。いままで観てきた映画のなかでも五指に入る。もしかしたら1番かもしれない。 森林警備兵のケンと無職の田舎人トン―…

映像と音楽で語られる“現代の民話” 『アンダーグラウンド』

今年7月、アフリカで南スーダン共和国が分離・独立した。また1つ、国が生まれた。このように「国が増える」ということに対して違和感を抱く人はあまりいないのではないかと思われる。(表向き)国民国家がスタンダードになった現代にあって、国というもの…

韓国映画の秀作2本

前のエントリーで韓流が云々述べたけれど、あの後ネットバタ足していてわかったことには、韓国映画というのはもうここ10年ほどの間ずっと、大変な賑わいであるらしいということだった。 ところで、実は最近、映画に半ば飽きていた。原因の1つを端的に言え…

サンフンという影画―ハン姉弟という可能性と、その模索 『息もできない』

「希望」と聞くと、ふつうは明るいイメージ。もしくは、軽やかな予感。でもこの映画で示された希望は、重い。直視するのに困難さを伴う希望だったと言える。 ネプチューンの原田泰造がテレビ番組「しゃべくり007」で嬉しそうに紹介しているのを見たことで…

『レスラー』再観賞/批評という援け

割引きクーポンが配信されるのを見計らって借りに行こうかと思っていたけれど、待ちきれなくて借りてきてしまった。ダーレン・アロノフスキー(『ブラック・スワン』の監督)の『レスラー』。 去年の秋のこと、なぜかやたらとDVDを借りてきては立て続けに映…

チャップリンと“あの”チャップリン 『チャップリン自伝』

この1ヶ月ほど怒涛のバイトの日々で、ここ3日間は夏コミの現場で汗だくになった(コミケってあんなに盛大に催されるものだったのか…!)。それに先立つ一月ほど前、7月前半、おれはにわかにチャップリンづいていた。少し遠くのレンタルショップにチャップ…

子供たちが産み落とされるこの街、人々 『セブン』

たとえば「小説」と呼ばれるジャンルを独りである程度掘り下げていると、その世界がどんどん広がり深まっていくと同時に、基本的に自分の興味・関心を軸としているわけだから、進む方角に無駄がなくなりブラッシュアップされていったり、あるいは頭打ちにな…

アンタのためなら何でもやってあげる 『月曜日のユカ』

フランス映画みたいな邦画。’60年代初頭と思われる横浜が舞台。 まず冒頭から、字幕テロップを横に流しつつ英語、中国語、スペイン語の3ヶ国語で横浜を紹介するというひと工夫が施されている。この演出で横浜という港に「日本のどの街とも違う、一風変わった…

女中が見た花柳界の流れ 『流れる』

1950年代初頭の、花柳界(遊郭)と置屋(芸妓の詰め所みたいなところで、住み込みもできる。キャバクラ嬢の派遣元みたいなところ…?)が舞台。この時代は車やカレーライスを「自動車」「ライスカレー」と呼ぶのが普通で、履歴書を筆で書き、千円札がまだ…

モーツァルトの音楽とある男の業 『アマデウス』

『のだめカンタービレ』を一気読みしたのを機に再鑑賞。去年の夏にTOHOシネマズの「午前10時の映画祭」で一度観て、そのときは予想以上に長くて終盤では集中力が切れてしまっていたため(140分くらいだと思っていたら180分もあったことに後で知…

今週のお題「心に残る映画」― 『善き人のためのソナタ』

『善き人のためのソナタ』を観たとき、心の内に起こった、静かで、穏やかな感動に奮えて、しばらく呆然としたのを今でも憶えている。観たのは大学に入学したばかりの頃だからかれこれ4年ちかく経っているけれど、あのときの感動や余韻は今も心に残っている…