旅先が外国の場合もってゆくとよいもの

 おもむろに、3・4年前にインドとか南米とかへ一人旅をしてみたときの話。

 それぞれ3週間〜1ヶ月くらい滞在していたところ、おれの場合、だいたい1週間過ぎて2週目の半ばくらいにモチベーションみたいなものが急激に衰える傾向にあった。

 体調が悪いというわけではなく、どうやら、異国の地に降りたったことによる高揚感・興奮状態もやや落ち着き、緊張がゆるみ、生活環境にも次第に慣れはじめると同時に、それまで心身ともに自覚できなかったらしいストレスや疲労がふっと顔を見せるようになるのが、ちょうどそのくらいだったようである。

 なんとなく、しゅんとなるわけである。

 ホームシックというには軽い症状なのだけど、こういうときはよく言うように、とにかく日本食が食べたくなる。それが無理とあらば、中華料理屋というのは街の周辺にたいてい2・3軒はあるものなので、中華料理でもよい。中華料理の場合、比較的リーズナブルかつ量も多いというのが大きなメリットでもある(日本料理はやや高い)。


 ところで、インドでしゅんとなったときは(余談ですがこの滞在中にサブプライムがはじけた)、現地で知り合った人に案内されてちょっとボロい日本料理屋へ赴き、親子丼とお味噌汁、漬物&あたたかい緑茶のセットを頼み、これを食して元気回復、子供たちと凧揚げをしに出かけた。これはヴァラナシでの話だが、なぜか当時、子供たちのあいだで凧揚げが大流行のようだった。

 このときおれは、わが身に活力を与えてくれたのはお米というより、あたたかいお茶だと思ったのだった。そして次にどこかへ行く際は、インスタントの緑茶でも持ってゆこうと心にメモった。

 ペルーはクスコにて同じようにしゅんとなり(ちなみにこの滞在中にはリーマン・ショック、奇異なるかな)、かつ合併症的ノリで軽い高山病にもかかって弱っていたときは、同宿の日本人女性に誘われて、ほどよい落ち着きと活気を併せもつ小ぶりな日本料理店へ足を運んだ。このときは高山病が追い討ちをかけていたこともあって食欲もふるわず、申し訳程度に、ご飯とお味噌汁だけというシンプルなセットを注文した。

 しかし、これが驚くほどに効果てきめんだったのである。あたたかなお味噌汁が臓腑にしみわたり、心身ともにほっとリラックス、また、高山病もふっとんだ!といって言い過ぎでないほどに身体中に元気がめぐっていった。

 いったい、おれがインドで活力を得た源は、あたたかい緑茶ではなくお味噌汁によるものだったのだと、このときになって思い至った。だいたい食べに行く前、弱りよわりベッドにうずくまっていながら持参していたインスタント緑茶のことは頭をかすめもせず、すっかり忘れていたのだった。持ってくるべきは、インスタントのお味噌汁だったのだ。

 それからというもの、友人・知人に、旅行先あるいは留学先に何を持っていったらよいかと訊かれた際には、(というのは、にわかバックパッカー的なことをしていたのは実際には1年と少しくらいなのだけど、どうも「旅慣れしてる人」というイメージを周りには抱かれているようであり、しかし事実はそうでもない…そのわりに)迷うことなくおれはこう答えてきた―、

 「そいつはお味噌汁だよ。インスタントで十分だから持ってゆきなさい。気持ちが弱ったとき、身体がなんとなくだるいとき、あたたかなそれを啜ればリラックスできること、元気になること、請け合いだ」と。

 この助言をこころよく聞き入れてくれ、実際に持っていった人たちは、お味噌汁の話はウソではなかった!と帰国後、多くが報告してくれている。

 まこと、お味噌汁は偉大である。旅先が外国の場合、インスタントのお味噌汁を持ってゆくこと、これをおれはオススメしておきたい。かさばるものでもないし、まあ騙されたと思って。


 さて、ついでにお話しておくと、お味噌汁をつくるためのお湯はどうするかという問題がある。

 欧米であれば神経質になることもないかもしれないが、アジアや南米となると、やっぱり水は一つの重大な問題となる。水道水が飲めないのでミネラルウォーターを買わなければならない。貧乏旅行ならばお湯はないと思ったほうがよい。

 しかし、とりあえず一時的にでも電気が通っている宿にでも行けば、このミネラルウォーターを使ってお湯の問題はなんとかできる。その際便利なのものに、掌大の「電熱棒」なる製品が存在する。東急ハンズなどに売っている(おれが買ったものは簡易の変圧器も付いていた)。

 これはカップやお椀に水を満たし、そこにちゃぷんと挿してしばらく待っているとお湯を沸かしてくれる、という優れものである。お味噌汁はあたたかいのとそうでないのとでは大分違うし、お湯を沸かせると自炊する場合にもかなり重宝するので、買っておいて損はない。


 ということで、このエントリーがどなたかのお役に立てればこれ幸い。

 Bon Voyage!