黒?いやいや、夢幻色 『黒檀』

アフリカのことをほとんど知らないから、いや、だからこそ、読みたいルポルタージュ文学。 知り合いには、ブルキナファソへ海外青年協力隊として派遣されたり、紛争地帯などでボランティアの医師として活動している人がいる。その人たちを通して、アフリカの…

都知事の「天罰」発言を受けて―その「日本」を内から見るか外から見るか

どうでもよさそうでいて実はそうでもなさそうだと思った点について。(この震災に関しては今週のお題で出される以前に数日前に少し書き留めたけど、ちょうどよい機会なので) 1週間ほど前に都知事(石原)の「天罰」発言が“一瞬”、物議を醸した(後にめずら…

英雄とは“あなた”のことだ 『千の顔をもつ英雄』

少し前に、ふと思ったことがあった。いま日本で生きている人には、人生という大きな枠で考えたときにいま自分がどの辺りにいるのか、照らし合わせてみることのできるような“物語”が欠けているんじゃないかと。だから、たとえば、おれと同年代のいわゆる若年…

アンタのためなら何でもやってあげる 『月曜日のユカ』

フランス映画みたいな邦画。’60年代初頭と思われる横浜が舞台。 まず冒頭から、字幕テロップを横に流しつつ英語、中国語、スペイン語の3ヶ国語で横浜を紹介するというひと工夫が施されている。この演出で横浜という港に「日本のどの街とも違う、一風変わった…

今回の震災を受けて忘れないようにしたい、2つの気づき。

9.11が起きたのは中1のときだったが、個人的に今回の震災は、そのとき以来の衝撃かもしれない。 衝撃と言っても、ダイナマイトが爆発して起こった振動に身体が揺さぶられるような衝撃ではなく、深い水の底で起きた何かの振動が緩慢に、重く響いていくる…

女中が見た花柳界の流れ 『流れる』

1950年代初頭の、花柳界(遊郭)と置屋(芸妓の詰め所みたいなところで、住み込みもできる。キャバクラ嬢の派遣元みたいなところ…?)が舞台。この時代は車やカレーライスを「自動車」「ライスカレー」と呼ぶのが普通で、履歴書を筆で書き、千円札がまだ…

モーツァルトの音楽とある男の業 『アマデウス』

『のだめカンタービレ』を一気読みしたのを機に再鑑賞。去年の夏にTOHOシネマズの「午前10時の映画祭」で一度観て、そのときは予想以上に長くて終盤では集中力が切れてしまっていたため(140分くらいだと思っていたら180分もあったことに後で知…

A Mysterious Number

3月3日、春の節句。 ヤカンの注ぎ口から白い蒸気が勢いよく噴出した。湯が沸いた。ぺろりと蓋を開け、お湯を注ぐ。うん、カップヌードルはここからが長いね。3分。なにゆえ3分?わかんない。 手持ち無沙汰なので、「1、2、3、4、5、……」としばらく…

今週のお題「心に残る映画」― 『善き人のためのソナタ』

『善き人のためのソナタ』を観たとき、心の内に起こった、静かで、穏やかな感動に奮えて、しばらく呆然としたのを今でも憶えている。観たのは大学に入学したばかりの頃だからかれこれ4年ちかく経っているけれど、あのときの感動や余韻は今も心に残っている…

ただ生きたいと思う、その気持ち 『コーカサスの金色の雲』

重い内容だけど重苦しくない、生きいきとした小説だ。一度読んだらクジミン兄弟やアルフズールを忘れられない。 おれはまだ、食べものを求めてさまよい歩く、といったようなひもじい思いをしたことはない。生まれてからこのかた、あるいは物心ついた頃からず…

「東京生まれ、東京育ち」であることのデメリット

多くの人にとって、東京で生まれ、東京で育つということは、一見良いことのように、ないし有利に思えるかもしれない。しかし、おれは必ずしもそうではないと思う。むしろ「東京生まれ、東京育ち」は、その人にとってかなりのデメリットをもたらしているので…

トニオのもう一つの答え 『トニオ・クレーゲル』

文学に限らず諸芸術・各種エンタメ、もしくは仕事や勉強など、必ずしも分量や時間で量ることのできるものではない。たとえば小説なら、長いわりになにも残らないこともあれば、短いけども一度触れるとどこまでも憑いてくるようなものもある。 ある種の人にと…

鳥の糞と、パラドックス

春の陽光暖かな昼下がり、おれはコンビニへ向かって歩いていた。暇つぶしである。 ふいに、目の前に白い物体が降ってきた。ヒヤッとしたのと同時に落ちたところへ目を移すとそれは、車のボンネットやルーフトップあるいは境内の石畳なんかでよく見かける、し…